[ BLOG ] 蓮沼フィルポエム フルバージョン

蓮沼執太フィルの「時が奏でる」特設サイトに日替わりで掲載されていた私ジマニカのリレーポエム、本日で最終回となりました。ログは残さない、と管理者の方が宣言しておりましたので、せっかくなので勝手にここに全文掲載したいと思います。これはフィルメンバー全員にサイト掲載用のコメントの依頼があり、しかも全7話という結構なボリュームの宿題だったのですが、先日受けた人間ドックの検査結果待ちの間あまりに待たされていた折に、ふとこの時間を無駄にしてはいけないと執筆に至った訳です。蓮沼フィルの楽曲 『ZERO CONCERTO』の真実が皆さんに伝わればと思います。

写真 3

『新宿駅 4:50』

白い息と共に夜の静粛から朝の喧噪へと変わりつつあるホームに俺は立っていた。すると視界の左側から、来る筈の無い始発が俺を迎えに来た。「乗らないよ、だって俺の切符、入場券だもん」俺は涙を流した。

 

乗ることのできないその始発はしばらくドアを開けたまま静止すると、誰も乗せずに再びドアを閉め視界の右側へと消えていった。そのとき、俺は気づいた。同じホームに一緒に演奏している仕事仲間が点在しているではないか。一体何をやっているんだ。俺と同じように入場券しか持たず途方にくれているのだろうか。

 

誰も話すことなく、ただホームに佇んでいる俺の仕事仲間の中には、何故かホームで玉ねぎを切っている奴らもいる。わざわざ包丁とまな板を持ってきたのだろうか。目的は何なのだろうか。

写真 1

そのとき、彼らが俺と同じく一斉に泣き出したではないか。もう始発は行ってしまったのに、何故泣き出したのだろう。俺は戸惑った。ほぼ一斉に、全員が違う理由で涙を流し始めたというのか。その涙の訳は何なのだろう。演奏を悔いているのだろうか。ではなぜPAまで泣いているのだろうか。全てが謎だった。

 

すると、反対側のホームに帽子をかぶった一人のラッパーがこちらに向かって何かを伝えようとしているのを見た。まさに電車に飛び込もうとしているのだろうか。何を言っているのかは分からないが、遺言をラップしているようにも見える。例えるならフリースタイルならぬ、トビーコミースタイルラップだ。待て、まだ早まるな。気持ちはわかるが。僕はそう心の中で叫んでいたら、また涙が出てきた。

 

その瞬間、トビーコミーラッパーと俺の間の視界を遮るように電車が右側から走り抜けた。俺は思わず目を背けた。走り抜けた後、そのホームにあのトビーがいたかどうか俺は確認することが出来なかった。あそこまで手振りの大きいラップをホームで繰り広げていたのだから、少なくとも腕は持って行かれたであろう。涙が止まらない。

 

ふと自分のいるホームに目を戻すと、まだ奴らはいた。しかも前にも増して号泣しているではないか。なんだこの光景は。先程のトビーを偲んでいるのだろうか。長髪の眼鏡はホームに座り込み、この世の終わりかのように泣き叫んでいる。辺り一面玉ねぎの皮が散乱し、泣きたくもないのにこちらまで涙が出てくる。目が痛い。ここはまさにグランドオニオンだ。

早く電車乗って帰ろう。入場券でも乗れるだろうか。